【ライブ記録】THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」〜Dear Moment〜@20250301 郡山HIP SHOT JAPAN

THE BACK HORN
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1時間足らずで郡山に着くとは知らなかった。見積もりが甘く、現地に到着したのはそこそこ早めだったので、息を吸うように飲酒してしまった。福島の日本酒でギアを上げる私。頭を抱えることに、自分が登壇するわけでもないのに私は毎回ライブの前に緊張する。そういう意味では、幾ばくかアルコールを摂取したほうが身も心もほぐれて丁度よいような気もする。でも、我ながらどうかと思う。

さて、今回のライブでは前回の水戸以上に心を打たれ、あまりにも感極まることになった。その結果、事あるごとに泣いてしまうという事態に陥るなど、個人的には心がせわしなかった。が、何はともあれ、心が動くのはよいことだ。

郡山のライブで感じたこと、それから印象的だった情景などについて、ここに残しておきたいと思う。

まずは印象的だった楽曲たちやMCの内容について。初日のライブと比べると、物理的にも精神的にも全体を見渡す余裕が増えたので、ほんの少しだけ、記憶にとどめておける量も多くなった。

はじめにふれておきたいのは「コワレモノ」のコールアンドレスポンスについてだ。「コワレモノ」という歌には「神様だらけのスナック」という一節がある。この部分をコールアンドレスポンスにするという愛に溢れながらも世にも奇妙なこの掛け合いは、会場の数だけ特色とドラマがあるにちがいない。

ところで、郡山はギター・菅波栄純の故郷だ。それゆえ(?)レスポンスーーー正確に言うと訛りーーーに対する彼の評価がそこそこ厳しかったことには抱腹絶倒だった。どうやら菅波栄純にしてみれば、観客が応える「スナック」には郡山らしい訛りが足りなかったようだ。「いいんだけど、訛りが足りない!!!!!」と叫ぶ菅波栄純のコメントに対して、笑いすぎて歌えなくなりそうだったと後続のMCで山田将司が言っていたのはさらに面白いことだった。

「コワレモノ」でのコールアンドレスポンスは折に触れて参加してきたものの、「訛りが足りない!!!!!!」という圧のあるコメントが私史上最も面白かったものだったということを伝えておきたい。

こういう面白描写を残しておくと、どのタイミングで泣いたのか認識が歪みそうでもある。が、心をギュッと掴んで離さない場面は、もちろん枚挙にいとまがない。以降はそうした局面について書き連ねてみる。

例えば「ジャンクワーカー」のベースについて。私は弦楽器の演奏に数えきれないほど憧れ、その3分の1程度実践し、実践した数だけ放棄することを繰り返してきた。

だから演奏についても構成にしても、まったくもって造詣は深くない。しかし、岡峰光舟が弾くベースがいかに化け物の形相で、それでいて至高に美しいかということだけは、自信をもって知っていると言える。私は彼が弾くベースがこの世界で一番大好きだ。

そういう前提条件のもと視線の先で打ち鳴らされるベースを目の当たりにするなど、恍惚とせずにはいられない事態だった。「ジャンクワーカー」のベースラインがここまで鬼難易度で、群衆を引き込む引力を持つものだということも、恥ずかしながら今回のツアーでようやく知るに至った。→文章量によっては長野編に組み込み

もっと好きになってしまったのが「未来」だ。MCによると「未来」に出てくる雪の描写は、菅波栄純が郡山(福島・故郷のどこか)の駐車場で雪が降る様を見て着想を得たものだったらしい。山田将司曰く、菅波栄純が「雪って音を吸収して静かになるんだ」ということを教えてくれた、と。

個人的に、私は雪が宿す情緒に一等弱い。だからこそ、雪国のひと、あるいは雪を経験しているひとが描き出す描写は、気がふれそうなくらいに好きだ。ふと思い出したかのように語られた内容は余白そのものとも言えそうだが、こうした逸話を知ってしまうと、「未来」が醸し出す繊細な佇まいは、より一層切実な美しさとして立ち現れてくる。今回のツアーに「未来」を組み込んでくれてありがとう。

『親愛なるあなたへ』のなかから、本編の最後に据える曲を選ぶとしたら「タイムラプス」だろうな、と何とはなしに思っていたら、本当にそのとおりだった。それはさておき、私はこの「タイムラプス」という曲を通じて、改めてTHE BACK HORNが描き出す希望の核心を見たような気がした。詳しく言うと、今の彼らが歌う希望は、ただ明るいだけのものではなく、痛みを伴うものだと感じたのだ。

個人的な見解ではあるが、こう思った理由は「タイムラプス」の次の歌詞にある。

希望が心を照らしてゆく 俺が望んで歩き続けるかぎり

ここに描き出される希望は、根拠のない明るくて陽気なもののそれとは全く違う。この希望は、言うなれば歩き続けるという苦痛を伴う営みのなかで邂逅しうる対価とも言えるだろう。つまり、彼らが見定める希望は、棚ぼた的に遭遇できるものではなくて、前進しようと試みる者だからこそ見定めることができる対象にほかならない。前進には痛みが付随するものだと知りながらも、彼らは希望に向かい続けている。

光に向かって歩き続ける姿を、他ならない彼らが見せている。痛みを知った人間だからこそ語ることのできる希望は、きっと何よりも勁く、何よりも説得力がある。だから、私たちはTHE BACK HORNを心から信じていける。この日の公演は、それを腹から納得させてくれるようなライブだった。 

今回のツアーを通して、私は「希望」について改めて考えてみることができる気がしている。たとえばそれは身近なひとのやさしさだったり、温もりだったりもすると思う。いわゆる当たり前とされる平穏無事な生活そのもの、当たり前にライブに行けるような日々、大切なひととつつがなく過ごせること。それらは殊更大きな声で主張しないものの、根元の部分で自身をしっかり支えてくれている希望にほかならない。

それらが、知らず知らずのうちに私を前に進めてくれるのだと思う。きっと希望は、日々のなかにたくさん潜んでいるにちがいない。ありふれたかけがえのない希望が照らす日々を、THE BACK HORNとともに歩みたい。

セットリスト
  1. 親愛なるあなたへ
  2. Running away
  3. Mayday
  4. 暗闇でダンスを
  5. 透明人間
  6. コワレモノ
  7. ジャンクワーカー
  8. カラス
  9. 修羅場
  10. 光とシナジー
  11. ヘッドフォンチルドレン
  12. Sun goes down
  13. 月夜のブルース
  14. 最後に残るもの
  15. 未来
  16. グローリア
  17. 戦う君よ
  18. 太陽の花
  19. コバルトブルー
  20. タイムラプス
  21. 刃(EN.1)
  22. 明日世界が終わるとしても(EN.2)

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