【ライブ記録】THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」〜アントロギア〜@20220504 KT Zepp Yokohama

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俺の世界で一番かっこいいバンドのことを話します。THE BACK HORNって言うんですけど。

2022年4月13日にリリースされた『アントロギア』はTHE BACK HORNの13枚目のアルバム。前作から3年半ほど経っていることに驚きを隠せないのは色褪せない名曲揃いだから。

『アントロギア』を初めて聞いたとき、これまでにないキャッチーさやポップさを兼ね揃えていた楽曲たちに最初は驚きもしたけれど、これまでの色々な鬱屈を乗り越えたからこその彼ららしいやさしさとか、ギラついたリビドーの現れなのだと肚落ちして、感動を禁じ得なかった。

この日を境に〈好きな存在〉が『アントロギア』の楽曲の数だけ世界に爆誕した。ありがとう。こんなに楽しいが詰まったアルバムは俺的THE BACK HORN史上初である。聞き終わってから一層ライブが楽しみになったことは言うまでもないだろう。

THE BACK HORNのライブに行くときは、やっぱり黒を纏いたいと思う。赤い紅を差すのも、マスク着用となった今でもやはり定番からは外れない。黒を纏い、赤を忍ばせるのが個人的な正装であり続けている。好きな恰好をしているととても気分が好いからね。

遠足を心待ちにする少年少女みたいに、とかくこの日を待ちわびていた。とはいえ、色々あってからライブに行くのは初めてだったので、彼らにようやっと会えるのだという昂揚感とは裏腹に、彼らの威力を受け止めきれるのか、幾許かの恐れも抱いていた。

ツアー初日をともにできる喜び。12月のマニアックヘブンぶりのTHE BACK HORN。その前はたぶん2021年6月のリブスコールツアーだったので、コバルトブルーを聞けるのは随分と久しぶりではないかと、ライブが始まる前からうずうずしていた。

透きとおった音色が美しいSEだった。瑞々しい花が、色とりどりの鮮やかな花が一斉に開いていくような、そんな情景を彷彿とさせるような音の連なり。ジャケットの色に合わせた青と赤のスポットライトが彼らの妖艶さを一層引き立てていて、それらに魅せられて血が騒いだのは私だけではない。

これ以上ない楽園を目の前にして「ウェルカムトゥーディストピア」1と口火を切る「ユートピア」から始まった夜は、濃密でいながらにして爆速で過ぎ去っていった。新譜に収録されたすべての楽曲を一夜にして堪能できる幸福を享受した。THE BACK HORNのライブでは、至る所に「血が沸き肉躍る恍惚」2が差し挟まれていて、多幸感のあまり絶命しそうなんだ、もはや本望だ。

全部好きな曲だし全部聞きたいと思うけど、なんとなく今だからこそ聞きたいと思う歌を聞けて、溢れる愛に圧し潰されてしまった。会場の温度が上がったにちがいない「声」、颯爽と始まった「生命線」、静謐さに呼吸を躊躇った「空、星、海の夜」。

新曲たちがお披露目されるなかで掻き鳴らされた懐かしい曲たちを聞いて確信したのは、出会ったときに感じたときめきを携えたまま古びていっているということ。

ライブに行くたびに、思いもよらない端々で大切なものの大切さに改めて気付かされ、打ちのめされている気がする。今回のライブで「歌が導くだろう」3という言葉に貫かれたのは、彼らの歌がある限り、私はぜったいに大丈夫だ、と確信したからだ。ずっと前から知っていたはずのこの言葉が今更ながら腑に落ちたのは、今の自分に必要な言葉だったからこその〈ああ、大丈夫だ〉という安堵だったのかもしれない。

今はまだ、出会ったばかりの新曲たちも、こんなふうにして古びていってくれるに違いない。それはさながら、経年変化を愉しむ革製品のような味がある。

生活の端々に溶け込んだ歌は、いつしか己の血肉になっていく。受け手の数だけ刻まれる歴史、敷衍される幾行の言葉、それは悲しみでもあれば喜びでもありえる生命の軌跡。使うからこそ付いてしまう傷も含めて己の一部になるということ。

きっとこれもTHE BACK HORNが伝えてくれたからこそ知ることができた「ささやかな幸せ」4の一つだ。

一つの歌から教えてもらうことは計り知れない。ときには新しい感情や言葉を識ることもあるだろう。あるいは新たに出くわした感情に対して、新しい見方を教えてくれることもあるだろう。そうやって知った感情の襞が色彩豊かな言葉を伴うことで、一つひとつの楽曲はさらに深い色を帯び、私が生く先を彩ってくれるにちがいない。

自分一人では知りえなかった感情、もとい大切なひとたちが教えてくれた大事なことが、割り切れない思いや名状しがたい感情をできるだけ微細に叙述するための活路を見出してくれるから、私はTHE BACK HORNとともに「今日をこえていける」3

「JOY」で締めくくられた本編。THE BACK HORNは明るい恒星のようだ。まさしくシリウスのように目がくらむような眩い光を放っている。

たとえどんなに遠く離れていたとしても
君が見つける光であり続けたい

松田晋二「JOY」、2022年

山田将司がMCでゆっくりと大切に紡いでくれたこと。「何度でもどうしても夜は来てしまうから……だから何度でも何度でも会いましょう」と言ってくれた言葉を胸に灯して、明日を生きていきたい。

何度も何度も来てしまう夜のあわいに、また会えることを心待ちにしている。ありがとうございました。好い旅路を祈っています。いってらっしゃい。

  1. 山田将司「ユートピア」、2022年[]
  2. THE BACK HORN「野生の太陽」、2002年[]
  3. THE BACK HORN「空、星、海の夜」、2001年[][]
  4. 松田晋二「JOY」、2022年[]

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