とても幸せな空間だった。愛に溢れている、やさしさが詰まった、宝箱みたいな時間だったことを銘記するために、ただ書き遺したい。相変わらずうろ覚えセトリ選手権がすぎるので、ごめんね、バックホーンの曲を中心に思ったこと、順不同です。
音楽は時間の芸術だと吉田武は言った1。でも山田将司の声を聴いたときに、ここには時間のみならず、空間を掌握するものすごい力が放出されていることを肌で感じた。
ライブハウスという空間に浸透する彼の声は、どこまでも広がりを持っていたし、バンド編成とはまったく異なった表情を魅せる楽曲たちと新たな邂逅を果たしたような気さえした。たとえそれがTHE BACK HORNの歌ではなくて、ほかの誰かが作った歌であっても、山田将司は山田将司の歌として周囲を惹きつける力がすさまじい。その場に居合わせた者であれば、この引力に吸い寄せられないわけがない。
今回の弾き語りではTHE BACK HORNの曲をたくさん聴けたような気がする。なかでもうれしかったのは夏を感じる歌シリーズ。ことあるごとにふれているが、THE BACK HORNには夏を彷彿とさせる曲がたくさんある。そのなかでも今回聴けた夏の曲は「海岸線」、「幸福な亡骸」、そして「何もない世界」。どれを選んで披露してくれるのだろうかと、胸が高鳴りました。
「海岸線」を聴いたとき、「希望なんて無くても世界はとりあえず美しい」2という歌詞がまるで具現化されたようだった。普段はそんなふうに思えないでいるけれど、改めてここで「海岸線」を聴くことで、希望がなくともとりあえず美しい世界に対し、私は肯くと同時に深く息を吸い込んだ。初めて弾き語りで披露すると言っていたかな。類まれな僥倖にまたも巡り合ってしまったようである。
「海岸線をわたる風」2というものが音だけでなんとなく想起される。音とイメージが結びつくことって、純粋にすごい。何よりも結び付けられるだけの音を創り出したTHE BACK HORNがとにかくすごい。そして私は『アサイラム』を聴きたくなった。
「幸福な亡骸」はとても静謐で神秘的な空気を纏っていて、この時間を脳内に閉じ込めて永久に再生したいと思った。『イキルサイノウ』に収録された「幸福な亡骸」は、伸びやかで滔々とした情緒を湛えている。
それに対して弾き語りで紡がれる「幸福な亡骸」は、そうした情緒を吹き飛ばすくらいに力強さを湛えていた。その音と融合した声は、訥々としていながらもとても勁い音だったことを憶えている。
山田将司の声に無限の広がりを覚えたのは、このサビを聴いたときのことである。どこまでも穏やかに広がる優美さにいつまでも浸りたかった。儚さがたなびく「幸福な亡骸」とはまるでちがった佇まいを目の当たりにして、魅せ方の多彩さに感嘆の息をこぼすとともに、この歌に対する思慕が一層強まった。
一身上の都合ですが、自分でも「幸福の亡骸」について思いの丈を綴ったばかりだったので、なんというか、色々な意味が感慨深かった。これからもそうやって語り続ければ、聴くたびにまたちがった印象を受けるに違いないので、それはそれで新しい楽しみ方と愛し方ができるのだと確信した。うれしいね。
そして夏シリーズ3曲目は「何もない世界」。この曲が始まる間に、一体これから何が始まるのだろうとワクワクし、予想が見事に外れたことだけは覚えている(何を予想していたかも忘れたくらいに衝撃が強かったです…)。
「何もない世界」を聴くと、MVの影響もあってか陽炎が見えるような気がする。実際に夏が躍動的に描き出されているのはたしかなことである。
「何もない世界」のなかで漂うのは、「何もない」という虚無。でも虚無があるということはつまり「何もない」があるということだ。理屈をこねくり回しているだけかもしれないけれど、「何もない世界」における「何もない」の存在感が圧倒的すぎる。この世界を声と六弦だけで描写する山田将司の表現力たるや。夏の蜃気楼に私の情緒は融かされた。
弾き語りで聴くと一層しびれたのは「あなたが待ってる」。この曲自体聴いたのは久しぶりだったので、なんだか胸がいっぱいになりました。やさしい曲だなァ。誰かを、何か大切なものを想うことについて、もう一度考えてみたいと思えるような曲。原曲も久々に聴いてみたけれど、なんだか雪みたいに真っ白な心に打ちのめされました。しみじみと好きだなァと思える気持ちは稀有ですね。はぁ、いい曲だなァ。
そして弾き語りは「JOY」で締めくくられました。これを聴くと、なんでこんなに胸がいっぱいになるのだろうね。アントロギアツアーぶりに聴けた「JOY」そうは言っても比較的最近聴いたはずなのに、訪れたツアーを早くも追懐するようで、これもまた至福の時間でした。本当にやさしくって、素敵な曲ですね。この気持ちもきっと愛と呼ぶのだろう。
そういえば弾き語り後に初めて「Shimmer Song」と「15歳」の原曲を聴いたけれど、別の雰囲気にときめきました。アンコールも二人がとても楽しそうで、本当に素敵な二人だと、始終顔がほころんでしまった。THE BACK HORNのフロントマンとしての山田将司とは違う雰囲気だったのも、とても新鮮でした。
アンコール1曲目は、カリカリタイトル「ふるさと」。仮仮タイトルのことですが、文字にするとねこのおかしみたいでかわいいね。カリカリ。まさっさん作曲と言っていたけれど、和を体現するような音にTHE BACK HORNらしさをどことなく感じるなどして幸せな気持ちでした。
2曲目に歌ったオブラディオブラダの日本語バージョンもとても楽しかった。音楽って、そうだ、楽しいものなんだ、と改めて教えてもらった気分である。「まだまだ最高の明日(未来?)が待ってんだ」というような歌詞だったと思う。
そうだよね、今日も最高だったけれど、生きていればこれ以上に最高でポップでチャーミングなことだってあるはずなんだよね。イェーイ最高ハッピーFuuuuとか言っているけれど、言わずもがな、エブリデイ好調なわけもない。
月並みの辛酸であっても、それを舐めてきたからこそ「それでも最高の明日があるんじゃねぇか」という発想に至ることができるのかもしれない。
だから、大切なことに気付かせてくれた時間を今日もありがとう。幸せな気持ちで、疲弊した身体を引きずりながら帰路につきました。また、どこかで、必ず。
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