2025年1月29日にTHE BACK HORNの14枚目となるアルバム『親愛なるあなたへ』がリリースされた。前作『アントロギア』の発売から実に2年9ヵ月ぶりのことである。
本アルバムのリリースツアーとして、表題にある「KYOーMEIワンマンツアー」〜Dear Moment〜の開催も同時に告知された。そのツアー初日である水戸公演に行ってきたので、アルバムの感想を踏まえながら感じたことを書き連ねてみることにする。
『親愛なるあなたへ』を聴いたときに感じたのは、正直に言って困惑に近い感情だった。端的に言うと、そのキャッチーさに狼狽えてしまったのである。このアルバムの1曲目である「親愛なるあなたへ」があまりにも昨今のTHE BACK HORNらしい(あえてこの表現を使う)鮮やかな曲だったので、未リリースの曲たちを聴いたときに、その異色さに驚きを隠せなかったのだ。
〈これまでのTHE BACK HORN〉と比較してしまうことが出発点として誤りなのは頭では理解しているのに、習慣というのは怖いもので、変化を瞬時に翻訳できるほどの互換性が私にはなかった。新曲である以上馴染みがないことは当然だとしても、あえて強い言い方をするならば、その目新しさに感動よりも先に戸惑いが押し寄せたのである。
もちろん、『親愛なるあなたへ』が聴けば聴くほどかっこいいことは、すでにリピートしていて分かっていることではある。が、同時に、ヒリヒリした熱情みたいなものを彼らに求めている自分がいることを、嫌と言うほど突きつけられたことも事実だった。
今までにないような楽曲に対し、一方ではその新鮮さに目を丸くしながら興味津々でいる。だが他方では、その馴染みのなさに足元がぐらつくような狼狽も感じていた。そうした綯い交ぜな気持ちを抱えたまま『親愛なるあなたへ』を聴いたり聴かなかったりしていたら、あっという間にツアー初日が目前に迫っていた。
ツアー初日のライブについて端的に言及すると、これはツアーファイナルか?と思わせるような熱気と湿気の渦だった。無論この熱気や湿気の一端は私も担っていた。2月とは思えない会場の暑さ。モッシュゾーンにいなくとも汗ばむ熱にのぼせそうなくらいだった。
本アルバムに初めて収録された曲たちのお披露目はこの日が初めてだったと思わせないくらいに、どの曲もしっくり馴染んでいたのが印象的だった。そんな新曲たちを目の前に、私はそれまで抱えていた蟠りを手放せないながらも、ただ圧倒されてしまった。新曲の曲調にもよるだろうが、何よりもTHE BACK HORNの技量があまりにも偉大であることを、改めて突きつけられたのだ。
一言でいうと、私はその場から目が離せなかった。ツアータイトルでもあり、彼らも繰り返し言っていた「この一瞬一瞬を噛み締めること」。それが、何よりも大切なことに他ならなかった。そこでは、彼らの楽曲に対する馴染の有無はさして問題にはならなかった。
目の前で繰り広げられる情景を瞬時に咀嚼できないのは当方のお家芸の一つでもあるが、今になって振り返ってみると、こうした変化について、多角的な観点から見たときの希望の一つであるかもしれない、という念が生じた。
たしかに変化を受容することと理解することとの間には、きっと計り知れない距離がある。どこまで行っても理解することは難しいかもしれない。そもそも、これまでも彼らの楽曲にを理解できていたのかと言えば、それも定かではない、という節もある。あくまでも私は、彼らの歌に〈共鳴〉しているだけだからだ。
思えば、長い歳月を経てもなお彼らの新たな一面を知ることができるということは、純粋に面白いことだ思う。それに関して烏滸がましいことを言えば、そうした変化について不思議と不安を抱いていないことが、そう思っている証左にも思える。
ド級の心配性である私が少しも不安には思っていないのだから、これからもおそらく信じていけるのだろう。憶測の域を出ない物言いが心許ないけれど、無理して言い切らないほうが私らしい。
それはそうとして、不安よりも先に面白いとか、どうしようもなく惹かれるとか、目が離せないとか、そういう心の機制を感じとったなら、それは希望と言っても差し支えないと思う。
たとえ変わっても、どこまで変わっても、変わらない生き様を語り、それを核に持ち続けるのがTHE BACK HORNだ。変わった部分があっても、確実に存在する変わっていない部分、その姿が、すさまじい引力になって私たちを惹きつける。今回のライブでも、そうだった。
生きることは変わること、変わりながらも変えない部分を知ること。見た目や形は変わっても、その本質はきっと変わらないままであり続ける。無邪気な少年のような無垢な想いが、彼らは彼らのままであることを教えてくれる。
いろいろあっても、何かが変わっても、変わらない核心は錨のように深く深く下ろされている。安心できる居場所だという揺るぎなさが、彼らにはあるのだ。様々な思惑の人間が4人いる。その時点で、変化は停滞よりも自然な営みであることは自明だ。
彼らの行く先を見てみたい。たとえどんな変化があろうとも。
それが今回のライブを通じて私が感じた素直な気持ちである。身体が持つ限り、きっと彼らのライブには行くだろう。行くことを選ぶだろう。それが確固たる思いとして自分の内側に改めて立ち上がってきたことが分かった。こうした揺れ動きを感じながらも、これからもできるだけ長くTHE BACK HORNを追いかけたい。
- 親愛なるあなたへ
- Running away
- Mayday
- 暗闇でダンスを
- 透明人間
- コワレモノ
- ジャンクワーカー
- カラス
- 修羅場
- 光とシナジー
- ヘッドフォンチルドレン
- Sun goes down
- 月夜のブルース
- 最後に残るもの
- 未来
- グローリア
- 戦う君よ
- 太陽の花
- コバルトブルー
- タイムラプス
- 希望を鳴らせ(EN.1)
- 明日世界が終わるとしても(EN.2)
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