【amazarashi】「アオモリオルタナティブ」の撮影地をめぐって

amazarashi
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まえがき

空と海、あれは果たしてどちらだったのだろう。最果ての交わるところを上空から眺めていた。

この世界には知らないものがたくさんありすぎる。まだ見たことのない世界が、眼前にですら広がっている。帰路につく途中、そんなことを考えていた。

それはきっとこれから好きになる何かが潜んでいることを意味するのだろうし、同時に捉えようによっては嫌いになる何かがあることも意味するのかもしれない。

せっかくなら、私は前者に賭けたい。

ところで、なんでもないただの風景が、好きなものやひとが絡むことで特別な意味を持つ場所になる、という体験があるらしい。

いわゆる聖地巡礼である。

自身にとって意味があるものが増える経験でもあるから、聖地巡礼というのはとてつもなく胸が躍る経験なのかもしれない。現地に赴いてみて、ようやく感じ取ることのできる現実世界が存在している。

訪れた場所の記録

私はamazarashiというバンドが好きだ。

2022年4月に発売された『七号線ロストボーイズ』というアルバムがある。そのなかに収録されている珠玉の名作「アオモリオルタナティブ」。

表題のとおり、この曲のミュージックビデオでは青森が―――もっというとボーカル・秋田ひろむに由縁のある場所が―――舞台になっている。

今回はこの曲のミュージックビデオが撮影されたと思われる場所を訪れた。

秋田ひろむが見てきたであろう場所をどうしてもなぞりたくて、身一つで向かったのである。

ゴールド免許を持つベテランペーパードライバーの私が公共交通機関と徒歩のみでめぐった「アオモリオルタナティブ」をここに書き記そう。初日に20000歩ほど歩いたら翌日早朝から足に痛みが走り、早くも行動範囲が絞られてしまったのは今となっては笑い話だ(これを書いている今もまだ痛い)。

2022年12月と2023年3月に赴いた場所に関する記憶を、断片的ではあるが留めてみたい。もちろん完遂できたわけではないので、なぞれたところだけでも。あの幸せだった瞬間を、貪婪に。

この文章を繰り返し読んだとき、訪れた場所を何度でも思い出しては温かい気持ちに包まれることを期待して、さあ、いってみよー!

訪れたのはこちら
番外編

青森駅前

まずは青森駅前から紹介。確認できたのは7か所。

青森県観光物産館アスパム

お馴染みのアスパム。私は海側からもアスパムの全貌が臨めることを知らず、何度も何度も正面玄関側からしか撮影をしたことはなかった。

そんなこんなで、今回ようやく収めることができた全身。右肩に輝く太陽が神々しかった。何か用事があるわけではなくても、やっぱりこの建物には毎回足を運んでしまう。

この三角はチャームポイントかつトレードマーク。何度見ても楽しいアスパム。余談だが、りんごパイが美味しかった。オススメ。

青森Quarter

青森だけに限らず、地方のライブハウスは聖地だと思う。 大きすぎないところもいい。「LIVE SPACE」って書かれているところも粋だよね。

青森県内のライブハウスには行ったことがないので、好きなバンドのライブがあれば必ず駆けつけたい。

アパホテル〈青森駅県庁通〉付近の小道

写真を撮っていて思ったのは、思いっきり道の真ん中にいないと収められる角度ではないということ。

車通りが少なかったので、車道を確認して秒で撮影。無事に撮れて胸を撫で下ろした。ああ、ここだな、と喜びが込み上げてくるのも聖地巡礼の醍醐味である。

何気ない風景が、〈なんか特別な場所〉になるのは何度でも体験したいことだと思う。

トヨタレンタカー 青森安方店付近の横断歩道

アスパムに立ち寄れば自ずと立ち寄れる場所。MVでは横断歩道が下に見えるので、おそらくここも道の真ん中で撮影したのではないだろうか。思いのほか定期的に車が走行していたので今回は断念して歩道から撮影した。似て非なる角度。

リカーショップ吉崎付近・青森ベイブリッジ下の駐車場

階段はあるけれど登れない道路。この高架は一体何だろうと思っていた矢先、これが青森ベイブリッジということを初めて知った。

橋の下は似たような駐車場が多いので、一つ一つ回っては何かが違う…とうろうろし、ようやく見えた場所。思いのほか端っこにあった。言うまでもなく、見分けるポイントはフェンス。

ただの駐車場が、特別な意味を持つ駐車場になった瞬間でもある。これについては後述します。

青森港北防波堤西灯台 あすぴぃ

あなた、あすぴぃって言うのね!Googleマップで調べていたとき、思わずこぼしてしまった一言だ。

名前を知らなかった三角錐の建物。それから気付いたのは、あなた、灯台だったのね、ということ。海の向こうに見える三角錐が印象的だ。上記のマップはあすぴぃの位置なので、撮影地ではない。

どこの位置から撮影したのだろうか。アスパムの裏側から見るとちょうど正面辺りに見える。このあたりから撮影したのだろうか。確証は得られないまま、至る所で似たような写真を撮りまくった。撮影した場所は下のマップのあたり。

そういえば、初めて青森に来たときに徐に収めた風景でもある。

旭町通りの飲食街

まさしく「国道から抜け道に入り陽の当たらぬ路地」1である。

この路地にある「こころ」という小料理屋にとても行きたかったのだが、2022年12月に訪れたところ、明かりはついておらず断念した。

2023年3月にGoogleマップをもう一度ひらけば「閉業」の一言。無念です。

この路地の雰囲気がすごく好きだから、12月も3月もどちらも写真を撮った。

むつ市下北駅

青森駅からは青い森鉄道とJR大湊線を乗り継ぎ2時間ほどで下北駅に着く。

個人的には三沢空港に降りてから青い森鉄道で北上するのが好きだ。

1両か2両編成の快速しもきた号。野辺地駅を過ぎると、停車駅は陸奥横浜駅と下北駅と大湊駅の3か所である。

陸奥湾沿いを疾走するときに視界に入る、穏やかに揺らめく陸奥湾には一瞬で胸をつかまれた。秋田ひろむも、きっとこの陸奥湾を見たんだろうな。

2回とも晴天に恵まれたので、私が見たのは湖かと思うような陸奥湾だった。ときには荒れ模様のときもあるのだろう。それすらも、もはや愛おしい。

神社横丁

踏み入れていいものだろうか。そう思いつつも、飲食店街なのだから大丈夫だろう、と少しびくびくしながら写真を撮った場所。「アオモリオルタナティブ」のMV自体、とても趣があって味がある演出だけれど、撮影地それ自体も風情がある。

夜遅くに営業を開始するらしい。要宿泊だし、本気で飲むことを考えるとできるだけゆっくり過ごすことが前提になる。

それって、最高に贅沢なのでは。

ゴールデンバット

Googleマップによれば、20時からオープンするらしい。ログハウス調の佇まいが独特な雰囲気を放っている「ゴールデンバット」。この看板がね、またレトロで素敵。

次の日早起きだったもので今回は断念。BARにはあまり馴染みがないけれど、次は「三宝」とともにハシゴしたい場所。何泊したらいいだろう。

ファッションストリート KINTA

既視感が漂いつつも正確な場所は分からず、神社横丁や国道279号沿いをやみくもに散策していたらたまたま発見した場所。

むつバスターミナル方面に向かっていたときにはまったく気付かなかった。そこから引き返すときに、たまたま左を向けばそこには陽がうすく差し込むアーケードが。ビニールが光を通して、暖色に包まれていた空間だった。

むつはまなすライン側からではなくて、神社横丁の小道から入ると、MVと同じ風景を目の当たりにできる。

はまなす通り

こちらもむつはまなすラインからではなく神社横丁側から入るとMVと同じ景色が見れる。それっぽいけどちがう、を繰り返して見つけた場所。この一帯を歩いていて思ったのは、おもしろそうな飲み屋がたくさんあるので、一晩では足りないだろうな、ってこと。

聖地巡礼の次は酒場放浪の旅でもいいかもしれない。本州最北端の酒場を行きつけにしちゃうの、とても最高かもしれない。

常念寺

経路的に常念寺が真っ先に目に入るところを歩いていたはずなのに、はじめに辿り着いたのは田名部神社。でも、この神社はMVに出てくる姿とは違う。〈MVに出てくるあのお寺〉はどこにあるのだろう、と思いながら、田名部神社ではひとまずお参りだけした。

これが田名部神社。

気を取り直してそこから立ち去ろうと左を向けば、常念寺は灯台下暗し状態に目の前にあったのだった。常念寺を正面に歩いてきたのに、なぜ視界に入らなかったのだろう。今となっては不思議である。

人の出入りもほとんどなくて、いい感じに写真が撮れた。

下北交通大畑線樺山駅跡

訪れたなかで一番感動したのが樺山駅跡。なのでここだけやけに饒舌。

2001年に廃線になった下北交通大畑線。樺山駅は始発である下北駅から数えて4つ目の駅だったらしい。

「アオモリオルタナティブ」はもちろんのこと、端々に見受けられる「廃線」という描写を鑑みると、それらはきっと大畑線のことを示しているとみて間違いない。「廃線になった線路」2というのも、この沿線のどれかなのだろう。

どこかで耳にした話なので定かではないが、「僕が死のうと思ったのは」に登場する「木造の駅」は樺山駅のことを指すらしい。樺山駅跡には、むつ市街地(むつバスターミナル)から市営バスで10分弱で行くことができる。が、本数が多くないのでくれぐれも時刻表をよく確認してほしい。後述するけれど、歩けないわけではない。

下北交通「北椛山」で下車。バス停から徒歩2,3分のところに樺山駅跡はある。けもの道を進むとその奥にひっそりと佇んでいる木造の駅舎は、思いのほか凛としていた。

大畑線が廃線になって20余年は経つ。それでも、その佇まいはあまりにも落ち着いていて、20年前から、と言うと大袈裟かもしれないけれど、あるときから時間が止まったかのように整然とした状態だったことに驚いた。

ところどころ朽ちているのはやむを得ないが、電灯も生活の痕跡も見当たらない場所で、ときには強風に煽られながらも厳しい冬を凌ぎ、またあるときは穏やかな春の陽にまどろんできたにしては、あまりにも綺麗だったことに心が跳ねた。

駅舎をぐるりと一周する。枝や枯れ草で地面はふかふかだった。雪が溶けてから随分経つようで、サリサリに乾燥した草のうえを歩く。

ふと見上げれば、軒先にぶら下がる大きなハチの巣。あれは立派なスズメバチの巣にちがいない。3月だったので、彼らは留守だった模様。ほっと胸をなでおろす。彼らとは絶対に戦えない。本能がそう告げていた。

ここで幅をきかせているのは、自然なんだなと。どれだけ状態が綺麗であろうとも、もうここは人間の場所ではないのだなと、思った瞬間でもある。

さて、帰り道はバスがあったにも関わらず、好奇心が勝ってどうしても歩いてみたくなった。「北椛山」のバス停からむつ市街地までは大体4km強。

基本的には一本道なので迷うことはなかったけれど、途中でバスに乗りたくなっても時間帯によっては次のバスは3時間後とかがザラなので、そこは念頭にいれるべきである。幸い、無事に歩くことはできた。

少し遠回りしたので「北椛山」から市街地までは1時間半くらいはかかったと思う。むつ市街地まではコンクリートで少し上がり下がりのある山道なので、歩くなら本当に歩きやすいスニーカーがいい。「北椛山」から樺山駅跡までもけもの道だからね。

先述したとおり、電灯もほとんどないので、明るいうちに行くことも必須である。それから夏は熊の目撃情報もあるようなので、事前に必ず調べてね。

時間が止まった場所に訪れたみたいで、不思議な感覚を味わった。

釜臥山のガメラレーダー

下北駅を遠く離れてもなお見える目印のようなもの。陸奥横浜駅あたりからも見えたような気がする。

一見すると景色を撮っただけにしか見えないのだけれど、山頂にある出っ張り。写真だと、目で見る以上に控えめに写る。

ガメラレーダーは下北駅から結構離れたところにそびえ立っているのに、目視確認できるくらいには大きい。実際に見たら、きっとそれなりの大きさに違いない。

下北駅に向かう途中、田名部中学校あたりの路上で、山頂にある四角いやつの存在にようやく気付いた。写真に撮ってみたくて撮ったところ、見返したMVに映っていて驚いたのはいい思い出。

あの四角いやつはなんだろう…と不思議に思いながらGoogle Earthで検索して、ようやく名前が分かった。ガメラレーダー。無骨でかっこいい名前。怪獣みたいだ。

ちゃんとした撮影地は不明だけれど、目線を上げればガメラレーダーをいつだって見ることができる。なんだかうれしい。

田名部川沿いの土手

定かではないけれど、MVの最後に出てくるところは、たぶん、下北駅側から土手をほどなく進んだ場所ではないかと思う。

土手の道はどこも整備されていてとても歩きやすかった。散歩したりランニングしているひともちらほら。人の数よりもカモの数の方が多いくらいだった。穏やかな日差しのなかで優雅に泳いでいた。そんなふうに、田名部川沿いには長閑な風景が広がっていた。

写真撮影は、といえば、行けども行けども商業施設やらが画面に映り込んでしまい、ここではないのでは…を繰り返していたので、半ば諦めモード。

目印は電波塔のようにひときわ高く出っ張っているもの。それを手掛かりに、翌朝、下北駅方面に向かって田名部川沿いの堤防を行く。もしかして!?を繰り返しながらようやく見つけられた場所がこの写真である。

目を凝らしてMVを見てみると、でっぱりの横にはほのかに赤い立方体が見えなくもない。これはおそらく「靴」と大きく書かれた量販店である。

たぶんこのあたりだよな、もしかしたら、ここじゃないかもな。まあ、楽しかったからいいか。

番外編 papaJAM

残念ながら営業日ではなかった模様。きっとここで秋田ひろむは歌ってきたのだろう、と思って、嬉しくなった。本州最北端のライブハウス、次は必ず行く。

番外編 戸山団地

誰かの住まいに行くことは気が引けたけれど、建物のなかに足を踏み入れるわけではないので、せっかくなので散歩がてらバスに乗って戸山団地周辺に行ってみた。

青森市営バス・明の星通り線に乗って「戸山団地中央通り」で下車。青森市街地からバスで大体20分ほどで着いた。

閑静な住宅街、スーパー、ドラッグストア、コンビニ。周辺には、生活するうえで必須の施設が揃っていた。

散歩がてら辿り着いたのは戸山西公園。戸山西公園には松の木が複数生えていて、そこはかとなく昔住んでいた街の林が思い出された。秋田ひろむが戸山西公園で思索に耽ることもあったのだろうか。

そういえば、青森駅方面に戻るときにふと見えた戸山団地入口付近に連なる桜の木が気になった。「さくら」という歌はおそらく上京していたときにできた作品なのだろうけど、なんだかそわそわしてしまった。きっと、もうすぐ桜が咲く。

「アオモリオルタナティブ」をめぐって

これまで生きてきたなかで、ただの駐車場に感動を覚えたことはない。それは大抵の人にも当てはまることだろう。

が、馴染みのあるMVに出てきた場所を見つけたときに感じたのは、まごうことない胸の高鳴りだった。そのとき、ただの駐車場は、ただの駐車場ではなくなった。ただの駐車場は、大好きなMVに出てくる特別な場所として確立されたのである。

それはつまり、なんでもない風景が意味を持つ瞬間でもあった。

今回は風景が特別な意味を帯びた体験をしたけれど、これはきっと何にでも言えることにちがいない。

たとえば、なんでもない日付が。あるいは、たまたま口にしたジンジャーエールが。はたまた空港のロビーが。

なんでもない事象は、あるきっかけによって、たちまち思い入れのある〈何か〉として立ち現れるのである。

好きなものたちが秘める威力は底知れない。好きなものたちを通じて、今まで考えてもみなかったことが繰り広げられていく。それらによって、日々の憂鬱はその影を潜めることだってある。

素晴らしいことがあるとは解っていても、生きていくなかで避けられようもないつらいことは、やっぱり多い。悲しみに明け暮れ、後悔は繁茂し、苦悩に打ち砕かれ辛酸を舐める。そんな日々に翻弄されては打ちのめされる。

それでも、特別な意味を持つ何かが自分のなかに増えていくのも、生きているからこそである。この確信が、今では喉の奥がツンとなるくらいには、切実な思いとともに込み上げてくる。

影を落として落としまくるくらいに心を痛める悲しみに、もしかすればこれから出くわしてしまうこともあるかもしれない。

それでも、それ以上の喜びが必ずあるとは言い切れないにしても、たぶん思いもよらない喜びが存在していることはたしかである。

今はこの希望を愚直に信じたい。だって、ただ赴いた場所をこれだけ好きになって、喜びを知ることができたのだから。

喜びでつらい気持ちが完全に上書きされるわけではない。データじゃないから、上書きをしたところですべてが消失することはない。私たちは多くを忘れることができる幸いな生き物だとしても、己の意志に反して憶えてしまうことだってある。

それでも主張せずにいられないのは、疼痛をあげるつらさを和らげることができれば、己の地獄に自身が翻弄されるのではなく、地獄を飼いならしていけるのではないか、ということである。悲しみの濃度を下げることができるきっかけがあれば、たぶん悲しみともなんとか共存できる。

好きだと思える風景が、世界にまた増えた。そんなふうに思える出会いがきっとまだあるにちがいない。生きていればこそ。生きているからこそ。今回巡れなかった場所は、次回に託そう。

行脚したことによる勲章、もとい足の痛みはまだ消えていない。でも、少しずつ和らいでいるのを日ごと感じている。

おかげさまで今日も、生きている。

  1. 秋田ひろむ「アオモリオルタナティブ」、2022年[]
  2. 秋田ひろむ「夏を待っていました」、2010年[]

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